LIVE REPORT
原 由子
原 由子 45th Anniversary Live「京都・鎌倉物語 2026」
ライブレポート
文=内田 正樹、写真=上山陽介
今年ソロデビュー45周年を迎える原 由子が、『伊右衛門 presents 原 由子 45th Anniversary Live「京都・鎌倉物語 2026」』を開催した。タイトル通り、京都2公演と鎌倉2公演の計4公演が催された。本稿では、4月7日に行われた神奈川・鎌倉芸術館 大ホールでの最終公演の模様をお届けする。
開演直前、公演の注意事項などを伝えるアナウンスが流れると、早くもあたたかい拍手が起こる。当たり前かもしれないが、会場の誰もがライブを心待ちにしているおだやかな空気が感じられる。それもそのはず、2都市4日間合計のキャパは約7,000人。ちなみにこの日はライブ・ビューイングも行われ、全国で15,000人が参加した。
定刻、SEとともにバンドメンバーがステージに登場。斎藤 誠(Gt)、中 シゲヲ(Gt)、山内 薫(Ba)、片山敦夫(Key)、山本拓夫(Sax)、TIGER(Cho)、金原千恵子(Vn)という、サザンオールスターズや桑田佳祐のライブやレコーディングでもお馴染みの面々に加え、やはり今回のツアーはドラムにサザンから松田 弘が参加という点もファンには堪らないトピックだ。

やがて歓声と拍手のなか、原 由子がステージに登場。両手を振って笑顔で一礼すると、ステージ中央に置かれたキーボードの椅子に座る。原がステージの中央にいるという画だけで、もうワクワクしてしまうから不思議である。
ステージは「あじさいのうた」からスタート。無数の和傘をあじさいに見立てた優美なセット映像も手伝って、1曲目から原 由子ワールドに引き込まれる。続いては「春待ちロマン」。鎌倉、江の島、砂浜、江ノ電、そして舞い散る桜の花びらといった春の情景を描いたスクリーン映像と原の歌声が相まって心が弾む。

皆様にお会いできたことがとてもうれしく、感謝申し上げます
ここでこの日最初のMCへ。「皆様にお会いできたことがとてもうれしく、感謝申し上げます」と改めて挨拶。「今年は衝撃のデビュー作でソロデビューしてから45周年となります」と観客を笑わせると、「サザンでさえこんなに長く続けられるとは思っていなかったのに、それにも増して、ソロとして、それもこの年齢でライブができるなんて、自分が一番驚いております」と笑顔を見せる。
ライブ・ビューイングの観客への呼びかけを挟み、「それでは最後の曲です」とボケを見せ、メンバーがすかさずずっこける。不意に炸裂したこの場に不在のはずの桑田佳祐譲りのギャグセンスで場内を沸かせると、「今日は年齢のことは忘れて、恋の歌をたくさん歌いたいと思います」と語り、「恋の歌を唄いましょう」から、「シャボン」へ。場内から歓声があがる。改めて、「いい曲ばかりだなあ、原 由子」としみじみ聴き入ってしまう。
再びMCタイム。「久しぶりに「シャボン」を歌ってみました。サザンは今年6月で48年目を迎えます。私はつい先日還暦を過ぎたばかりだと思っていたんですけど、気づいたら今年はもう60代最後の年」と振り返り、やはりこの2月に古希を迎えた桑田佳祐が“NEW 70’s”サイトのステートメントで放った「コキ(古希)まくる」を引き合いに出して(また桑田さんの悪影響が(苦笑))、「一生青春、私もそんな気持ちで年を重ねたいと思っています」と思いを語ると、せつない恋心を描いた「Anneの街」と、原自身、「ちょっと寂しかった女子校時代」の情景を重ねた「少女時代」、「鎌倉 On The Beach」へ。「Anneの街」と「少女時代」は1991年、「鎌倉 On The Beach」は2022年のアルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』からのナンバーだ。過去と近年の原 由子の音楽が連なるように鳴らされる幸せに、自然と首を左右に振りながら目を細めている自分がいた。

続いては1981年の1stアルバム『はらゆうこが語るひととき』から、「尊敬する宇崎竜童さんに作曲をお願いして快く引き受けていただいた」という「うさぎの唄」へ。当時、原が仮タイトルで書いた「うざき(宇崎)さんの唄」を、アシスタントが間違って「うさぎ(兎)さんの唄」と書き写したことから本タイトルと歌詞が生まれたというエピソードも楽しく、サザンオールスターズの関口和之が担当した詞の世界観を、原曰く『まんが日本昔ばなし』のイメージで映し出した鳥獣戯画のアニメーションや、ほっかむりをした農夫姿のダンサーやうさぎの着ぐるみたちとともに、まさに“はらゆうこが語るひととき”といえる、楽しくも日本古来の情緒溢れるステージが繰り広げられていく。
しかも、さらにレア曲が続く。何と1983年の「夕方Friend」、初のライブ演奏だ。トロピカルなスティールパンの音色で場内にカリブの風を運ぶと、曲間でソロプレイのリレーを交えながら、原がバンドメンバーを紹介。演奏後、まさしく「みんなのソロ回しが聴きたくて選曲しました」という原の言葉に驚かされた。
改めてメンバー紹介を挟み、原が次曲の準備のためにステージ袖へ。青山学院大学の後輩であり、45年以上の付き合いになるというギターの斎藤 誠が、学生だったサザンが出ていた都内のライブハウスに度々足を運んでは原に経済状況を心配されていたという微笑ましいエピソードで時間をつなぐと、わざと話を遮るように(苦笑)アコースティックギターを抱えた原がステージに戻る。このあたりはもう親しい間柄ならではの呼吸と言えよう。
そして松田のシェイカーが情感を盛り上げるアンプラグドな味わいの「いちょう並木のセレナーデ」から、続けざまに「唐人物語(ラシャメンのうた)」へ。原のボーカルと憂いを湛えた斎藤のアルペジオがいにしえの女性の悲しい物語をやさしく歌い上げる。

原は再びキーボードの前に座ると、「あ、こんなところに伊右衛門が」とご愛嬌。(ちなみにこの日はサントリー緑茶「伊右衛門」のペットボトルが観客全員に配られた)「今日は全国からありがとうございます」と再度観客に感謝を伝え、「国内外を旅する機会は少ないけれど、歌を歌っているとその場一緒にいたような気になったり情景が目に浮かんだりするから、本当に音楽の力って素晴らしいなぁと思います」というトークから、「旅情」、「鎌倉物語」、「京都物語」と、まさに今回のライブのコンセプトを象徴するレパートリーを立て続けに披露する。
イントロが鳴らされるたびに客席から拍手が起こる。演出も曲と足並みを揃えて鎌倉から京都の情景へと移り、大文字の送り火の映像や舞妓風の和装に身を包んだダンサーたちがステージを盛り上げる。「鎌倉で、「鎌倉物語」を歌えてとても幸せです」という原の感慨深いコメントも印象的だった。
「(次の曲は)弘くんも一緒にコーラスしてくれてるんですけど、弘くんはドラムもいいけど歌もいいんですよ」、「この曲がなかったら、45周年のライブなんてできなかったと思います」と語って、1980年にサザンで初めてリードボーカルをとった「私はピアノ」へ。ショーダンサーたちとぼんぼりにも似た4灯のスタンドライトが艶やかにステージを彩り、観客から一層の声援が上がる。

さらに、「それでは、そろそろ盛り上がっていきましょうか!」という元気なかけ声で、モータウン調のリズムも心地良い「恋は、ご多忙申し上げます」からアップテンポな「ハートせつなく」と思わず体が動く流れを作ると「スローハンドに抱かれて(Oh Love!!)」へ。ストロボライトやスモークを駆使し、スクリーンには歌詞のモチーフであるエリック・クラプトンとパティ・ボイドをはじめ、ザ・ビートルズなどをイメージしたグラフィックが次々と映し出され、ステージ上は60’S後半風のサイケデリックな世界で彩られる。
最高潮の盛り上がりのなか、銀テープの特効を合図にダンサーたちが一斉に登場し、本編のラストは「じんじん」。ハンドマイクを手にした原のボーカルにのって、ダンサーたちがツイストダンスをきめる。洋楽のロックと日本の歌謡性が融合したグループサウンズ由来のマージーでダンサブルなノリが観客の体を揺らす爽快なパーティームードで本編が幕を閉じた。
アンコールは、ザ・ベンチャーズ「Walk Don’t Run」とザ・ピーナッツ「恋のフーガ」を鮮やかに繋いで、「そんなヒロシに騙されて」へ。再びのツイストダンスで観客を煽りながら、途中で「そんなヒロシが」を繰り返して松田がドラムブレイクを炸裂させたかと思うと、今度はバイオリンの金原千恵子をフィーチャーし、「そんなチエコが」を繰り返すというまさかのギャグ展開に(笑)。というか、どうも自分で仕掛けておきながらツボに入ってしまったようで、当の原さん自身、笑いが止まらなくなっていたのも面白かった。
改めて観客に感謝を伝え、「これが60代最後のソロライブかもしれませんが、またいつか皆さまの前に」と、最後は伊右衛門のCMでもお馴染みの名曲「花咲く旅路」へ。眩い照明と桜の花びらが舞い散るイメージ映像のなか、明るい未来へと続くような原の歌声が観客を魅了していた。
大変なことが多い世の中ですが、
平和じゃないとライブもできないですもんね
演奏後、「大変なことが多い世の中ですが、平和じゃないとライブもできないですもんね」と原が観客に語りかけると、その言葉を讃えるようなあたたかい拍手が湧き上がった。「(私は)まだまだ大丈夫みたい! またサザンでもライブをやりたいし、桑田のツアーもどうぞお楽しみに! またライブでお会いしましょう!」と続けると、最後は「1、2、3、ダーッ!!」と桑田譲りのアントニオ猪木風3カウントで、全21曲、約2時間にわたったライブを締めたのだった。
たとえばキャロル・キングやカーペンターズからエバーグリーンな感動が得られるように、筆者には原 由子の声と鍵盤の音だけでしか得られない音楽的な幸福というものが確かに存在する。新作リリースとは異なるアニバーサリーというタイミングだからこそ、その淡くせつなくやさしく雅やかな音楽性の魅力の再確認も叶った幸せな時間だった。

