FEATURE
原 由子

20人の書き手が筆を取り、原 由子がメインボーカルを務めた楽曲やミュージシャン原 由子について語る特別企画。
原 由子の45年のキャリアを様々な角度から徹底解剖!
実体化し共に歩む歌声となった令和の原 由子 文=麦倉正樹
ドラマ『ふぞろいの林檎たち』の影響でサザンを聴くようになった(正確には『バラッド '77~'82』のカセットテープを購入した)自分にとって原 由子の歌声は、ある種の衝撃だった。情感溢れる桑田佳祐の歌声の狭間に響く、それとは対照的なクールな女性ボーカル。手を伸ばしても届かない場所から響いてくるようなその歌声に、ずっとドキドキさせられてきた。端的に言うと、ある種の“幻想”を抱きながら聴いていたのだろう。けれども、その歌声は――ソロとしてのキャリアを積み上げたことや、録音の仕方にもよるのだろう――いつしか“実体化”し、同時代を共に歩む“歌声”になっていた。2022年のアルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』を聴くと、より強くそのことを思う。「スローハンドに抱かれて (Oh Love!!)」と「鎌倉 On The Beach」。60年代ロックにオマージュを捧げるサウンドとマイナー調のメロディが楽しい前者と、サザンの「鎌倉物語」の続編的な意味合いもあるという詩情が美しい後者。曲調としては真逆の2曲だが、その歌声は以前よりもずっと近い場所から響いてくるように感じられるのだ。否、彼女は最初からずっと、その場所に立っていたのかもしれない。変わったのは、聴いている自分のほうなのか? そんなことを考えさせてしまうのもまた、長いキャリアの賜物なのだろう。令和の原 由子を祝福したい。