SOUTHERN TIMES

サザン・タイムズ

FEATURE

原 由子

20人の書き手が筆を取り、原 由子がメインボーカルを務めた楽曲やミュージシャン原 由子について語る特別企画。
原 由子の45年のキャリアを様々な角度から徹底解剖!

いたずらに感情を煽らない、シンガーとしての懐文=香月孝史

1998年のアルバム『さくら』に収録され、原 由子がボーカルをとった「唐人物語(ラシャメンのうた)」。モチーフとなるのは、開国に揺れる幕末にアメリカ人領事の看護人として雇われ、「唐人お吉」と通称された女性。偏見にさらされ、虚実綯い交ぜに物語化されてきた彼女の生を、この楽曲は柔らかくいたわるようにたどる。詞には、彼女が時勢に翻弄されやがて不吉な終着地に行き着くまでが描かれるが、容赦のない運命を綴りながらもなお、その一節一節には泣きたくなるような美しさをたたえている。あらためて桑田佳祐の卓越した情景描写にも舌を巻く。原 由子の歌声は、そんな人物像を過度にドラマティックに煽ることなく、その存在をそっと肯定するような静かな優しさを宿す。
この秀逸な歌唱のバランスは、名曲の再解釈にもみることができる。原 由子のカバー・アルバム『東京タムレ』所収の「今日の日はさようなら」。さまざまなジャンルの創作に引用され、ノスタルジーや切なさが託されてきた楽曲だが、穏やかで抑制のきいた原の歌声は、同曲に落ち着きのある洒脱さを吹き込んでみせる。軽妙さも迫力も存分ににじませることができる人だからこそ、いたずらにエモーショナルに寄せない歌唱表現にシンガーとしての懐を感じさせるのだ。

唐人物語(ラシャメンのうた)

今日の日はさようなら