FEATURE
原 由子

20人の書き手が筆を取り、原 由子がメインボーカルを務めた楽曲やミュージシャン原 由子について語る特別企画。
原 由子の45年のキャリアを様々な角度から徹底解剖!
原 由子――日常の隣に置かれる声 文=高橋芳朗
原 由子には、何度聴いても飽きない、どこか生活に近い声がある。特別な場所に連れていこうとするのではなく、日常のすぐ隣にさりげなく置かれる。そういう歌が、彼女には多い。その理由を考えるとき、1983年リリースの2ndソロアルバム『Miss YOKOHAMADULT YUKO HARA 2nd』に手が伸びる。アルバムを締めくくる「いちょう並木のセレナーデ」と「ヨコハマ・モガ」、いずれも桑田佳祐が書いたこの2曲が、その答えを自ずと示している。
「いちょう並木のセレナーデ」の土台には、桑田と原が共に過ごした青山学院大学時代の記憶がある。ギター一本に寄り添うようなフォークソングの佇まいで、原は自分自身の来し方を過不足なく届ける。黄葉の並木道、学生時代の記憶。そういう情景が、声によって押しつけられるのではなく、ふわりと喚起される。生活の言葉で語りかけるような声だからこそ、聴き手は自分自身の風景を自然に重ねられる。この曲がのちに小沢健二という別の才能を動かしたのも、そうした声の在り方と無関係ではないだろう。
続く「ヨコハマ・モガ」は、原にとって自分の生まれ育った街・横浜を舞台にした曲だ。大正末から昭和初期の開港文化を纏い、西洋への憧れを胸に生きたモダンガールの物語。時代も境遇も遠いはずのその女性像が、原の声を通すと妙にリアルに聴こえる。デュエットパートナーの鮎川 誠の無骨な声と並んでも、原の声は浮つかない。異国の風が吹き込む港町の、それでも変わらない日常の体温を、声がどこかに宿しているからではないか。半世紀前の横浜モガが、現代の生活者の声で歌われることで、哀愁がかえって身近なものとして届いてくる。
歌が生活に近いということは、つまり聴き手の側に近いということだ。それはささやかなようで、実はなかなか得難い歌手の才能だと思う。