SOUTHERN TIMES

サザン・タイムズ

FEATURE

原 由子

20人の書き手が筆を取り、原 由子がメインボーカルを務めた楽曲やミュージシャン原 由子について語る特別企画。
原 由子の45年のキャリアを様々な角度から徹底解剖!

メロディメイカーとしての眼差し。その誠実さ文=杉浦美恵

原 由子が紡ぎ出すメロディは、懐かしさの裏にある痛みや寂しさまでをも密やかに(時に明確に)表現するものだと思う。たとえば代表曲のひとつ、1987年リリースの「あじさいのうた」。心地好く降る雨のリズムで、恋に落ちていく喜びを描き出すこの曲も、2コーラス後に展開されるメロディが、そのやさしい「恋」はもう過去のものであることを告げるように絶妙に淡い影を落とす。それは「まぶしい影」とも呼びたくなるような、アンビバレントにして抗いがたい魅力を放つノスタルジア。
あるいは1989年のシングル「ためいきのベルが鳴るとき」のB面曲「星のハーモニー」。幻想的で多幸感溢れるサウンドのなか、〈この星のどこにでも しあわせは かくれてる〉と歌う、そのメロディの揺らぎ。歌詞を追えば100%「希望」に満ちた言葉だけれど、その歌声には、まだ幸福の意味さえ知らずにいる臆病な心の震えのようなものまでが表現される。この繊細なメロディメイクこそ原 由子のコンポーザーとしての素晴らしさであり、決して一元的には物事を描かない作家としての誠実さでもある。
余談だが、1982年に原 由子がアイドル・伊藤つかさに提供した「夢見るSeason」にも、すでにしてその作家性は顕著だった。恋への憧れをまぶしく描いたポップソングのなかで、少女の「心の寒さ」を表す1フレーズが劇的に効いている。振り返れば当時から原 由子のソングライティングはとにかく非凡だった。