REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-
栗本 斉 氏
真剣レビュー
広く深くなんでもありな個性弾ける第一作
史上最強の“ごった煮”バンド、そのすべてが詰まった作品である。しかもデビュー作だというのに、この完成度の高さは奇跡的だ。当然テンションマックスのラテンディスコ歌謡「勝手にシンドバッド」の破壊度は強力で、その熱量はリアルタイム世代でなくても感じられるだろうが、本作の醍醐味は音楽性の幅広さと奥深さである。何をやってもロックバンド然としているが、実はリズム&ブルース、ジャズ、ラグタイムといったオールドタイミーなサウンドを絶妙なバランスで取り入れている。しかもこれ見よがしで音楽的素養をひけらかすのではなく、さりげなく日本語のポップスに落とし込んでいるのだ。ボサノヴァを彼ら流に解釈した小粋な「別れ話は最後に」や、ゆるやかなレゲエのリズムがユニークな「レゲエに首ったけ」まで音楽性を広げたかと思えば、リトル・フィートをオマージュした年末年始ソング「いとしのフィート」なんてのもあり、まさに音の万博状態。それらをあの斬新な言語感覚で貫いているのである。本当に全曲の詞曲が桑田佳祐ひとりの頭脳から生まれたのだろうかと勘繰ってしまうほどバラエティに富んでいると同時に、デビューならではの瑞々しさが溢れんばかりの傑作。