REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-

小栁 大輔 氏
もしもレビュー
永遠の新人バンドは、何度でも新しく生まれる
本当に新人バンドのアルバムらしいアルバムである。〈勝負出ろ!〉と叫び、〈ひとりひとりは みんな違っていいよ〉という本当の願いが歌われる「アロエ」に始まり、拉致被害者をテーマに社会を映す「Missing Persons」、スタジアムコーラスが響き渡る「東京VICTORY」、あの人の背中越しに半生を懺悔する「栄光の男」、そして〈たった一度の人生を捧げて/さらば友よ〉と澄んだ空につぶやかれる祈りのバラード「蛍」まで――。そう、このアルバムには深まる人生が経由してきた幾つものシーンが、文学表現の粋を刻みつけるような筆致によって描き込まれている。しかし、どういうわけか、今デビューを果たした新人バンドが作ったアルバムとして最高の作品に聴こえるのである。それはきっと桑田佳祐にとって、全16曲、71分超という規格外のスケールをもって向き合ってきたこの16の物語こそが今、どうしても「歌いたかった」ものだったからということなのではないかと思う。その切羽詰まる欲望に根ざした、強欲なまでの業がこのアルバムを清々しく新たな実感で満たしているのだと思う。
誰も初期衝動を超えることはできないという不可逆の真実があるのだとして。サザンオールスターズはこれからも何度でもデビュー作のようなアルバムを作るのだろう。そこに「歌いたい」歌がある限り、サザンは何度でも新しく生まれていく。