REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-

ノイ村 氏
真剣レビュー
日本の大衆音楽とは、「サザン」とは何か?
2015年元日の朝刊に掲載されていた『葡萄』の広告と、そこに掲載されていた「平和の鐘が鳴る」の歌詞を見た時の驚きを今でもよく覚えている。前年の「ピースとハイライト」の時点では、あくまで“サザンらしさ”によってコーティングされていた平和への想いが、ここでは逃げ道のない真っ直ぐな言葉として、紙面に刻まれていたからだ。そして、これこそが『葡萄』という作品の位置付けを象徴している。本作を聴いていて浮かび上がってくるのは、年を重ね、消え行く命と向き合い、騒々しい今の日本の姿を見つめながら、それでもこの国と文化を心から愛し、平和を願う人々の姿に他ならない。一周回って凄みを感じさせるエロ曲「天国オン・ザ・ビーチ」に翻弄されながらも、ヒリヒリとしたロックに乗せて「Megumi, Come back home to me.」と歌う「Missing Persons」の鬼気迫る姿に圧倒される『葡萄』は、桑田佳祐にとって(自身が制御できる限界を超えるほどに)巨大な存在となったサザンが“やるべきこと”を最も突き詰めた作品であり、だからこそ、ソロ以上に生々しい「道」で見せる、しがない一人の歌うたいとしての自分自身を歌う桑田の姿が、ひときわ印象に残るのだろう。