REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-

黒田 隆太朗 氏
もしもレビュー
ハートにドキューン!
新人がディスク2枚組、全30曲収録のアルバムをリリースするという破天荒ぶり......買います。ボ・ディドリー風のリズムと沖縄民謡を結合させた「神の島遥か国」はどう考えても名曲で、ちょっぴり卑猥なディスコ歌謡「愛と欲望の日々」なんて素晴らしすぎてクラクラする。作品全体を見渡しても、ラーガロック風の「からっぽのブルース」に始まり、R&B、ジャズ、ソウル、ファンク、ヒップホップ、フィル・スペクター風のポップにロックンロールなどなど。気ままに音楽の歴史へとアクセスしながら、強靭なるポップセンスでまとめていく剛腕ぶりである。歌の主人公たちは理性よりも欲望に従い、恋に落ちては痛い目をみて、それでも愛に殉じようという潔さがある。そして「ひき潮 〜Ebb Tide〜」などに象徴されるように、この音楽には人生の斜陽を受け入れようという侘しさがあるのだ。人生は進みこそすれ、戻ることはない。〈青春は逃げてゆく〉(「恋人は南風」)し、〈しあわせは音もなく風と共に去って行った〉(「LONELY WOMAN」)のである(だからこそ「BOHBO No.5」の乱痴気騒ぎが最高なのだ)。陰気な社会に投げかける活気、貧しい時代に生まれた豊かな音楽。老いも若きも踊らせるポップである。