REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-
柴 那典 氏
もしもレビュー
80sを骨格にしたポップ歴史絵巻の爆発
どうかしている。いきなり20曲収録のアルバムというのも型破りだが、1曲目「Computer Children」からサンプリング・コラージュを詰め込んだ6分を超える大曲というのも常識外れ。続く「真昼の情景 (このせまい野原いっぱい)」はアフロファンクだし「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」は変拍子のプログレ。さぞアバンギャルドで実験的なグループかと思いきや、メロディは人懐っこく、ヴォーカルは表現力豊かで、歌モノとしてのポップセンスは抜群。あきらかに異様な“冴え”を持ったグループだ。カラフルなシンセや飛び道具っぽいリズムマシンや空間系エフェクトには80sサウンドへのオマージュを感じるし、トーキング・ヘッズやスクリッティ・ポリッティあたりを彷彿とさせるニューウェーヴ感もある。けれどその向こう側には70sのグッドメロディへの憧れが見え隠れする。「吉田拓郎の唄」や「星空のビリー・ホリデイ」などレジェンドの名前をあえて曲名に使ってるところからしても、首謀者の桑田佳祐の脳内にはポップの歴史絵巻が詰め込まれているのだろう。天才性は間違いないがアイディア満載すぎてこの先がちょっと不安になるほどの一枚。