REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-
西廣 智一 氏
真剣レビュー
映画を題材に「音楽」で遊んだコンセプト作
外部ミュージシャンが多数参加したことで「SOUTHERN ALL STARS and ALL STARS」名義にて発表された本作は、桑田佳祐が監督を務めた映画『稲村ジェーン』のサウンドトラック的な内容。「LOVE POTION NO.9」「愛して愛して愛しちゃったのよ」といった映画の舞台でもある1960年代のヒット曲カバーに加え、曲間には劇中のセリフを含むインタールードが挿入されたコンセプチュアルな作風となっている。また、ヒットシングル「真夏の果実」や、スペイン語で歌唱されるタイトルトラック「稲村ジェーン」、本作唯一のインスト曲「美しい砂のテーマ」、「愛は花のように (Olé!)」など同年発売の前作『SOUTHERN ALL STARS』からの再収録曲など、全体的にアコースティック調ラテンサウンドで統一されていることも本作の特徴。そんな中で、今もなお愛され続けているスタンダード「希望の轍」、後期ビートルズに通ずるブルージーなサイケロック「東京サリーちゃん」が異彩を放つ。今では10thアルバムとしてカウントされる1枚だが、その背景含めもっとも遊び心に満ち溢れた作品集ではないだろうか。