REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-
小山 守 氏
もしもレビュー
万の言の葉が炸裂するラジカル奇天烈ポップ
なんといってもアルバム・タイトルがすごい。“万葉”、すなわち“万の言の葉”。中心人物の桑田佳祐は本作で日本語の美しさや奥深さに着目し、それを従来の定型にとらわれない使い方で全編に散りばめ、普遍的な青春からアイドルへの妄想、情事の殺人事件に至るまで、多様すぎるモチーフでズバズバ斬りまくっているのが驚愕だ。たとえばリリカルなバラード「慕情」での〈汽車の窓に浮かぶ影は時間(とき)を越えて無情〉という美麗な表現だったり、「ブリブリボーダーライン」ではブラス・サウンドに乗せて〈金の緞子(どんす)は舎利(しゃり)の気分〉などのブッ飛んだ言葉を放つ。極めつけなのがファンク・チューン「シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA」で、〈修羅場穴場女子浮遊〉〈愛乃場裸場男子燃ゆ〉といった、英語を日本語に無理矢理置き換えたような実験的試みをやっていて、それをなまめかしい巻き舌唱法で聴かせてしまう。サウンド的にはロック、ブルース、ソウルを軸に、ドゥー・ワップやラテンの要素もあって、歌詞と同様に雑多で支離滅裂なのがおもしろい。言ってみれば、日本語詞の未知なる可能性を示したラジカルな奇天烈ポップ。桑田は突発的に現れた恐るべき天才、というべきか?