REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-
内田 正樹 氏
真剣レビュー
待ちわびた者だけが憂う世界の歌
あくまで筆者調べだが名盤だらけのサザンのなかでも時々90年代の音楽を浴びた同世代とその前後の同業者と話すと「本作が一番好き」という声をよく耳にする。エロい描写のマッチョさも世相批評もルーツ音楽の対象化もバラードの哀切も全てがキレキレなのだから言葉を扱う稼業からの尊敬と畏怖も頷ける。小林武史が唯一完全なサザン名義のアルバム全体に関与し、制作においてコンピューターが本格導入された一枚。『KAMAKURA』に匹敵する物量にロックでラジカルな攻めのリリックとマジカルな実験を試みたデジタルアレンジと暴力的なまでにジャンルレスな快楽至上主義のバンドサウンドと桑田メロディの真髄が凝縮されている。流行への目配せも忘れず、「シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA」「涙のキッス」なるモンスターヒットからクリスマスソングまでをも収録。表現欲があり余り、迸っている。本作以降、桑田の日本語遣いの面でより古典や文学を意識した傾向が顕著になるという点や95年リリースのシングル「マンピーのG★SPOT」(※実はオリジナルアルバム未収録)に繋がるアナーキズムを意識しながら聴くとまた異なる趣が感じられるはずだ。