REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-

北野 創 氏
もしもレビュー
重苦しい世の中に喝を入れる新人離れの大作
重い。あまりにも重すぎる。全16曲78分超。時短が尊ばれ、1曲3分未満が当たり前となったこの時代に、ほぼ全曲が4~5分超え。希望の見えない世を憂うフォークブルース「私の世紀末カルテ」に至っては6分半強の大曲である。独特の語感と語彙を駆使した歌詞も、遊び心たっぷりな一面を見せつつ、その実はシリアスでシニカル。往年のビッグビート風の「爆笑アイランド」では不誠実な政治家からパパ活女子(ここでは〈援交〉と歌っているが)までを笑い飛ばし、不穏なデジタルディスコファンク「PARADISE」では核問題にも切り込む鋭さ。レディオヘッド「Paranoid Android」を意識したであろう転調まみれの急転直下なオルタナロック「CRY 哀 CRY」、ドラムンベースリバイバルの波に乗る「(The Return of) 01MESSENGER ~電子狂の詩(うた)~」など、サウンド面においても90年代末(=世紀末)の重々しい空気を纏っていて、昨今の享楽的なY2Kブームとは一線を画する。だが、それらを一息に聴かせる歌の説得力、そして「素敵な夢を叶えましょう」などの美麗なバラード曲に見られるロマンチックな要素が、本作を時流を超えたポップスの傑作たらしめている。これが本当に新人だとしたらマジで世も末だ。