バンドのイメージを一変させ、音楽的な評価を決定づけた名曲「いとしのエリー」が収録されたアルバムとして知られる『10ナンバーズ・からっと』は、桑田佳祐をはじめとするメンバー全員のルーツミュージック、演奏家としてのセンスや魅力、“匂い”が露わになった作品でもある。その中心にあるのはブルースとサザンロック、そしてソウルを少々。渋みを効かせたブルースロックにレゲエの要素を散りばめた「奥歯を食いしばれ」（原由子のピアノソロが素晴らしい！）、デキシーランド・ジャズのテイストを大胆に取り入れた「アブラ・カタブラ（TYPE２）」、中国風のイントロから始まり、リトル・フィートを想起させるサウンドとオリエンタルな旋律が溶け合う「ブルースへようこそ」など。幅広いファクターを飲み込みながら独創的な楽曲へと昇華させる音楽的身体能力の高さは今聴いても圧倒的だ。聴きようによってはかなり実験的で斬新なのだが、それを誰もが楽しめるポップミュージックへと昇華させるセンスは天性としか言いようがない。全国ツアーやテレビ出演などで多忙を極めるなか制作された影響か、曲によってはやや声が荒れている桑田のボーカルも生々しい。