REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-
黒田 隆憲 氏
真剣レビュー
何もかも型破りなスタジオワークの結晶
年間100本近いライブやテレビ出演など多忙を極めたバンドがスタジオワークに専念した結果、ライブ活動を一切やめて『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を生み出したビートルズさながら、本作は大胆な挑戦と緻密な設計が調和したコンセプトアルバムに仕上がった。初めて原 由子と松田 弘がそれぞれボーカルを務めた「私はピアノ」「松田の子守唄」は、バンドの音楽性を広げる象徴的な挑戦。前者ではザ・ピーナッツやクレイジー・キャッツへのオマージュを盛り込み、ダブルトラックを用いた原の個性的な声が鮮烈な印象を残す。後者は澄み渡るような松田の歌声が、桑田佳祐のそれと鮮やかなコントラストを生み出している。山下達郎もフェイバリットに挙げる稀代の名曲「C調言葉に御用心」は軽快なAORサウンドと挑発的な歌詞が絶妙に絡み合い、「タバコ・ロードにセクシーばあちゃん」では年老いた男女の恋愛を悲哀とユーモアで表現。かと思えば、女性の生理に戸惑う男性心理を綴る「恋するマンスリー・デイ」など何から何まで型破り。思えば冒頭曲の一部がアルバム後半で再び顔を見せる構成も、『サージェント・ペパーズ〜』を想起させる。