REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-
天野 史彬 氏
真剣レビュー
美しき揺らぎを捉えた、80年代の大傑作
1983年にリリースされた6thアルバム。このアルバムがパッケージングしている「揺らぎ」に、私は惹かれる。無邪気さと洗練の狭間にある揺らぎ。時代、大衆、己のロマン――それらすべてを背負い、歩を進めんとするバンドの、足取りに宿る武者震いのような揺らぎ。リリース当時の「時代の音」に真っ向から向き合ったシンセサイザーサウンドが今なおクールに響く屈指の名曲「マチルダBABY」にはじまり、走り続けるバンドを包み込む繋がりと優しさを祝福する名バラード「旅姿六人衆」に終わる。そんな完璧なオープニングとエンディングに挟まれて、このアルバムは様々な表情を露わにする。ラテン風サウンドが大胆に躍動する中で〈女と女〉の物語を紡ぐ「赤い炎の女」、中国残留孤児を歌ったエキゾチックな「かしの樹の下で」、チャーミングなエレキソング「そんなヒロシに騙されて」、そして「サラ・ジェーン」や「EMANON」は極上の滑らかさを光のように放つ。シンセや電子ドラムを大胆に導入することで80年代のサウンドにアジャストしつつ、そこから溢れ出る「らしさ」がまた魅惑的な、華やかで、複雑で、力強い――まさに『綺麗』というタイトルが相応しい、大傑作。