REVIEW
-音楽ライター30人が語るサザンのオリジナル・アルバム-
石角 友香 氏
もしもレビュー
リズムも歴史認識もデカいパースで鷲掴み
例えばジャズ研的なストイシズムではなく、世界の音楽をなんとか自分たちの歴史や文化の側に引き摺り込んで形にしてやろうという野心が恐ろしく充満したオリジナル・アルバムだ。物騒なサイレンと鐘の音と異星人が現れそうなSEから始まるオープナー「マチルダBABY」の80’sサウンドを取り入れたシンセとサックスリフのアイデア。ポリスの「Walking On The Moon」を彷彿させるダブ的音像の「星降る夜のHARLOT」は戦後に身をやつした女性を描き、中国風のエキゾチックなシンセリフが印象的な「かしの樹の下で」では祖国に帰れない人々への眼差しを感じさせるなど、発想の破格さにしばし唖然とさせられる。ラブソングですらアバンチュールだったり映画的な非日常性が漂い、今度は“ここではないどこか”へ引き摺り出されてしまう。20年以上続く低成長、いや先細りの時代にあってこの沸々としたエネルギーには舌を巻くのだが、同時にこのアルバムを聴いていると言っちゃいけないことなんてない気がしてくるのだ。